なぜ歯学部は不人気なのか

新型コロナウィルスによって、私たちの生活にも様々な変化が予想されます。

いまの自分の仕事はどうなっていくのか?子供たちの将来はどのような仕事が必要とされるんだろうか?

自分のことはもちろん、親としては子供の将来も気になりますよね。

最高の資格職とされている医師でさえ、コロナ禍においてはネガティブな話ばかり目にします。
 

では歯科医師はどうなるんでしょうか?

そもそも歯科界としての問題点は、様々な事象があるのですが、今回は歯学部の人気低迷についてお話したいと思います。

人気低迷といっても、私が高校生のころから不人気学部でした。東大や医学部に行けるような成績の人でも歯学部を選んだ時代があった、なんていうのは都市伝説だろうと思っていました。
 

昔は人気があったのに、当時はもう人気がなかった。
 

この原因は明らかで、「昔は儲かったのに、歯学部を増やしすぎて歯科医師が過剰になったために儲からなくなった」ためであるのはほぼ間違いはないと思います。

ただし、これは比較の問題であって、儲かる時代を知っている人が言うならわかります。

しかし現在の高校生だけでなく、我々の世代ですら歯科医師は特別に儲かるというイメージがないですから、もう長いこと歯科医師の収入に対するイメージは変わってないはずです。その一方で、歯科医師の多くが貧乏で生活するのにいっぱいいっぱい、ということもありません。平均年収ランキングを見ても、特別低いということはないかと思います。基本的に失業するリスクは低く、資格があるので嫌な職場であれば辞めても次が見つかります。
 

ではなぜ人気がないんでしょうか。

①私立だと学費が高い(その割に収入が低い)
②歯科医師過剰問題による収入や雇用の不安
③つぶしがきかない
④職人的要素が強い
⑤医師になれなかったというイメージがある
⑥歯科医師国家試験の難化

主な理由はこれぐらいでしょうか。

①学費が高い

おそらくこれが一番大きいのではないでしょうか。


歯学部のある大学でも国立大学はあるのですが、数が少なく定員も少なくなっています。全国29ある歯学部のうち、国公立は12校しかありません。地域によっては岡山大学広島大学九州大学九州歯科大学、など国公立大学が多い地方もありますが、もっとも人口の多い首都圏においてはなんと東京医科歯科大学しかありません。定員も55名と少ない!関西圏でも大阪大学しかありません。こちらは定員53名。ひと学年の定員は国公立では私立の半分以下になります。

医学部と同様、国公立大学の数においては西高東低になっています。したがって、多くの人は私立に入学することになります。しかし私立の歯学部は、私の受験当時最も安い東京歯科大学でも3000万弱だったと思います。

現在では多くの私立歯学部が学費を下げ、今や東京歯科大学が最も高い歯学部となっています。

これは、歯科医師国家試験の難化と関係しており、国家試験合格率の低い大学は学費を下げることによって定員を確保せざるを得ないためと言われています。

学費については、歯科医師を養成するのに費用が掛かるため仕方がない部分もあります。しかし、医学部の場合も同様に私立だと2000万から4000万かかりますが、偏差値・倍率ともに非常に高くなっております。
 

②歯科医師過剰問題による収入や雇用の不安

これについては何と比較するかによると思いますが、やはり医師との比較になるでしょうか。
若手歯科医師であれば勤務医としての求人はたくさんありますし、子育て中の歯科医師でも時短など融通が利く職場も多いでしょう。収入に関しても、そのような職場では患者さんも多く、それなりの収入を得られると思います。ただし、④にも関係しますが、歯科医師の場合は個人の技術が大きなウェイトを占めます。優秀な歯科医師であれば、医師と比較しても遜色ない収入を得られる一方、そうではない歯科医師ではそれほど多くはないかもしれません。

最終的には開業をする人が多いということも、そのリスクを考えると歯学部入学を躊躇する理由かもしれません。

ただし歯科医師国家試験が難化し、以前は年に3000人合格していたのが、今や2000人です。しかも、昔と違い歯学部の学生の半分が女性です。女性は一般的に開業する歯科医師が少ない上、団塊の世代の歯科医師がどんどん引退していくので、開業する歯科医師数は減少していくのではないでしょうか。
 

③つぶしがきかない

例えば私は歯科医師を15年やってますが、いまから他の仕事は難しいでしょう。しかしそういう意味ではなく、歯科医師という枠の中でつぶしが利かないという意味になります。歯科医師の勤務パターンは非常に少なく、大学の職員、病院の勤務医、個人医院の勤務医、自分で開業、ぐらいしかありません。

私自身も、大学病院の勤務医→個人医院の勤務医→開業と勤務先を変えてきました。医師であればフリーランスという、スポットで勤務をするような業態が可能ですが、歯科医師ではよっぽど特殊技術がないと難しいと思います。また、歯科医師には当直のバイトはなく、健診も多くはありません。

勤務医の需要は若いうちはたくさんありますが、年をとるにつれてなくなっていきます。歯科医院は個人での開業が圧倒的に多く、自分より年上の勤務医を雇用する院長は少ないからです。

結局、開業するという選択肢か定年まで勤務できる場所を探すくらいしか選択肢がないのです。
 

④職人的要素が強い

医師でも外科医はそうだと思いますが、手先の器用さが必要になります。不器用でもなんとかなる、と言いたいところですが。。
もちろん医療なので、人間性は重要ですし、コミュニケーション能力も必要なのは言うまでもありません。

ただ、東大に入れる頭脳があっても、誰からも好かれる人間性があっても、歯科医師として成功するかはわかりません。

成績は普通でも普通にコミュニケーションがとれるならば、手先が器用な人は向いているといえます。

とはいえ、個人で開業して波に乗れば経営にまわるなど不器用でもやっていけると思いますし、歯科麻酔医や歯科放射線科医、病理医など直接患者さんの治療をしない科もあります。

 

⑤医師になれなかったイメージがある

歯科医師の子供でなければ、歯学部を第一志望にする人は少ないと思います。私は東京歯科大学しか受験していませんが、もし難易度・学費が同じ医学部があればそちらを受験していたと思います。

ですので、受験生にとっては歯学部に行くのは負けみたいなイメージがあるのはよくわかります。しかし、歯科医師は歯科医療におけるリーダーであり、通常業務内で医師と接することは基本的にありません。仮にコンプレックスがあったとしても、それを感じる機会は少ないと思います。


私は医学部を受験したことはありませんが、100%歯科医師になりたかったわけではありませんし、医学部コンプレックスがゼロかと言ったらそうではないかもしれません。
しかし、多くの医学部くずれの歯科医師は歯科医師として歯科の世界で生きていくうちに、楽しくなってきて医学部のことはわすれていくんであろうと思います。


⑥歯科医師国家試験の難化

これは結構切実な問題です。
6年間かかって国家試験に受からなければ時間とお金の無駄になってしまいます。また、大学によっては成績が悪いと国家試験を受けさせてもらえない場合もあるようです。大学としての国家試験合格率を考慮した判断ですね。

こればっかりは個人の問題なので何とも言えません。。
 

以上、自分なりに歯学部人気低迷の理由を挙げてみましたが、やはりどうしても医師との比較になっちゃいますね。
しかし、医学部に入れなかった、入れそうにない高校生が次の選択肢に歯学部を入れないのはもったいないんじゃないかなと思います。

歯科医師のいいところについて、私や周りの歯科医師の意見をまとめてみると…

・仕事が楽しい。(休みでも勉強することが苦ではない人が多い)

・やりがいがある。(患者さんの人生に携わる責任の重さに身が引き締まると同時に、無事に治療が終わると充実感がある)

・残業も少なく、しっかり休みがある。(逆に週休ゼロで働くのも可能。勤務する場所は容易に見つかる)

・自分次第で収入を上げられるし、頑張って勉強してる歯科医師がお金に困ることは考えにくい。(おそらく報道などによる歯科医師のイメージよりは、皆さん経済的に余裕がある)

・歯科医療におけるリーダーであり、裁量権が大きい。

・人間関係が嫌なら、職場を辞めればよく、次がすぐ見つかる。起業へのハードルも低い。

 

ここには書けないメリットも他に多数あります笑。

国立ならば学費は安いし国家試験合格率もいいので、ほとんどデメリットはない気がします。
 

 

 



 

 

 

 

【監修】
監修 太田純也

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